東京オリンピックまでに車夫英語の復活を! (その2) 和製英語改訂運動編

ひとりごと

(C)Ippei INOUE

※井上逸兵のひとりごと 2014 年 3 月号をまだお読みでない方はそちらを先にご覧ください。 そちらはこちら。

先月のひとりごとは思いのほか大反響を巻き起こし、ネット上の暗号コインがいつの間にかち ょビットも残っていなかったニュースも、耳が聞こえなかった現代のベートーベンの耳が奇跡 的な復活を遂げたニュースも、北朝鮮が人類で初めて人間を太陽に着陸させ(しかも 4 時間 で太陽まで到達し)たニュースも吹き飛んだようだった(かもしれない)。

さて、今月は先月号で少し触れたが、車夫英語復活運動の一環として重要な和製英語改訂運動 について論じてみよう。

和製英語とは文字通り日本でできた英語で、英語圏では通じなかったり、違う意味になってし まったりするものをいう。

和製英語は、実際は英語ではなく、れっきとした日本語である。だから、元の英語とずれてい たり、英語として意味をなさなかったりしてもとやかくいう筋合いは、ほんとはない。カレー ライスを本家インドの料理と違う!と騒ぎ立てるのは馬鹿げたことだ。

この運動の目的は、ただたんに東京オリンピックに向けて日本人の英語力を向上させようとい うだけのことである(前月号参照のこと)。

その目的から考えると、和製英語は日本人の英語力の向上にかなり邪魔になっていると言わざ るを得ない。ていうか、これほどたくさんの英語らしきことばを日本人が知っているのに、そ れがそのまま英語として使えないのはもったいない。英語風日本語と英語と二つおぼえるのは 労力の無駄である。

和製英語やこれに類する固有名の問題には、いくつかの側面がある。

まずは、音。
たとえば、かつて白い恋人とまで謳われたカルピスは CALPIS と綴っているが、そう、車夫英 語では l(エル)の音は「ウ」であるように(だから「エウ」)、 cow piss(牛のおシッコ)と 聞こえてしまう。これではどんなにおいしくてもとうてい売れそうにない。そんな恋人はいく ら白くてもいらない。そのため、英語圏では CALPICO として売っている。

意味ももちろん重要だ。

ポカリスエットは pocari sweat だから、その名がラベルに貼ってあると、英語圏の人なら (pocari の意味はよくわからんが)そのボトルに入っている液体はなんらかの「汗(sweat)」 であると推察する可能性は高い。英語人も、やはり汗はかくものであって、飲むものではない と思っている公算は低くない。あるいは、他人や他の生き物の汗は飲みたくないと思うのが人 情である。小生などは、さほどの甘党でもないにもかかわらず、自分の汗すらも飲みたくない。

意味のレベルでもいろいろと和製英語と真正英語とでは食い違っている。

カフェとか喫茶店で、「モーニングサービス」などというセットメニューがあるが、morning service は、教会の「午前中の礼拝」(たぶん午後も礼拝がある教会なのだろう)のことであ る。そのつもりで来たお客さんがいつまでたっても礼拝が始まらないのでイライラして宗教紛 争になったらたいへんだ。

「シュークリーム」は、shoe cream と思われれば、「靴を磨くクリーム」と勘違いされる可 能性が高く、お客様にはとうていお出しできない(この「シュー」は、もとはフランス語の chou)。英語では cream puff。おもてなしのつもりが、お出しして、「靴磨け!」というメッ セージととられれば外交問題に発展しかねない。

あげればキリがなく、「ナイーヴ(naive)」(「なんでも鵜呑みにするバカ」の意)、「ムーディ (moody)」(「ムラっ気がある、不機嫌な、キモチワルイ」の意)など、真逆のニュアンスの ものもあるので、これらを英語人に使う場合はケンカの覚悟が必要である。

和製英語をぜんぶ真正英語に置き換えることができたら相当英語力が向上していることはま ちがいない(きっと)。たとえば、「スピードダウン」(和製英語)を speed down と言わずに slow down と言い、「コストダウン」(これも和製)を cost down と言わずに、reduction in production cost などと言っていると(すでにカタカナ語にするのが困難だが)、だんだん英 語的発想と語彙が身につく(はずだ)からである。

これらもやはり前号で主張したとおりマスメディアの統制がどうしても必要だ。車夫英語庁、 ならびにメディアカタカナ英語監視局の法整備を急がねばならない。小生も車夫英語庁官就任 会見のための新しいアルマーニのスーツをしまむらで買ってきたところだ。(2014年4月号)

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